技人国(通訳・翻訳)の更新が不許可に|「1日の業務量」を示せなかった事例と再申請のポイント
外国人社員に通訳・翻訳を担当してもらい、在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国)で雇用している会社の方に向けた記事です。 通訳・翻訳は技人国の代表的な業務ですが、「本当にそれだけの仕事量があるのか」が書面で伝わらないと、更新でも不許可になることがあります。 本記事では、英語と母語を使って働く外国人社員2名の更新申請が「書面からは1日の業務量が確保できているとは認められない」として不許可になった事例を取り上げ、 入管から説明を受けた不許可理由と、再申請に向けて会社が準備すべきことを整理します。同じような職務で外国人を雇用している会社は、次の更新の前にぜひご確認ください。
ケース概要
- 申請人
- 同じ会社で同様の業務に従事する外国籍の正社員2名(いずれも英語が公用語ではない国の出身)
- 在留資格
- 技術・人文知識・国際業務(在留期間更新許可申請)
- 学歴・語学
- 日本の専門学校(ビジネス系学科)を卒業。母国では英語で授業を受けてきたが、英語の検定試験のスコアはなし
- 職務内容
- 外資系の顧客への英語での連絡・報告、同じ国出身のアルバイト従業員への業務指示の伝達、海外の提携先との会議の通訳など
- 所属機関
- 専門性の高い現場業務を請け負う会社(業界は伏せます)。主要顧客の多くが外資系企業
- カテゴリー
- カテゴリー2(前年分の給与所得の源泉徴収税額が1,000万円以上)
- 社内の状況
- 申請人と同じ国籍の技人国の正社員が、申請人を含めて5名在籍
- 不許可の主な理由
- 書面からは1日の業務量が確保できているとは認められない
- 担当
- 行政書士 加治屋事務所
事案の背景——英語と母語を使う「通訳・翻訳」担当者の更新
申請人の勤務先は、専門性の高い現場業務を請け負う会社で、主要な顧客の多くが外資系企業です。 現場では、海外の顧客の担当者と専用のシステムを通じて英語で連絡を取り合う場面があり、また、申請人と同じ国の出身者がアルバイトとして多数働いています。
申請人2名は、日本の専門学校を卒業した後、この会社に正社員として入社し、技人国の在留資格で働いてきました。 更新申請の理由書では、職務内容を次の3つに整理し、技人国のうち「国際業務」の翻訳・通訳に当たると説明しました。
理由書で説明した主な業務
- 外資系顧客への英語による連絡・報告、顧客からの英語の指示の受付と社内への伝達
- 同じ国出身のアルバイト従業員に対する、母語での業務ルール・手順の説明と伝達
- 海外の提携先とのオンライン会議・来日時の打合せにおける英語の通訳、英文メールの翻訳
申請人は在留期限内の4月8日に更新を申請し、在留期限が過ぎた後は特例期間として在留を続けていました。 申請から約4か月後の8月13日、お盆の時期に追加資料の提出を求められました。求められたのは、英語能力を示す資料、同じ国籍の社員の一覧、1日・1週間の業務スケジュール、 現場での業務の発生頻度や従事人数などです。提出期限は8月19日で、特例期間の期限(8月22日)まで残りわずかという時期でした。 会社は期限前日の8月18日に回答書を提出しましたが、8月20日に不許可の通知を受けました。
技人国の不許可理由——入管が指摘した5つのポイント
不許可の通知の翌日(8月21日)、出入国在留管理局で不許可理由の説明を受けました。全体としての理由は、「書面からは1日の業務量が確保できているとは認められない」というものです。 具体的には、次のような点が指摘されました。
- 業務量が数字で示されていない:追完資料に、1日あたりの現場の稼働拠点数、処理件数、そのうち通訳が必要になる件数が書かれておらず、業務量が確保できていると判断できない
- 同じ国籍の正社員が5名いる:業務量がはっきりしないなかで、申請人2名が通訳・翻訳として本当に必要なのか判断できない
- 英語業務の水準が分からない:顧客との連絡用システムでの英語のやり取りが、高度な英語を使うものなのか分からず、通訳・翻訳の業務といえるのか不明
- アルバイトへの指示が誰の仕事か不明確:同じ国籍の正社員が5名いるなかで、アルバイトへの指示が申請人2名だけの業務なのか分からない
- 「伝えるだけ」では管理とはいえない:日本人リーダーの指示をアルバイトに伝えるだけでは、管理している業務とは認められない
入管は、業務量がはっきりしないことから、実際には専門性のない現場作業をさせているのではないかという疑問を持っていたようで、審査の過程で申請人本人にも業務内容を確認していました。 技人国では、職務全体として在留資格に当たる業務が中心であることが求められます。通訳・翻訳を「主な業務」と説明する以上、それが毎日どのくらいあるのかを示せなければ、該当性(在留資格に当てはまるか)が認められにくくなります。
なお、申請人2名の英語能力も確認の対象になりましたが、こちらは不許可の主な理由ではないとの説明でした。この点は後ほど詳しく取り上げます。 入管が公表している不許可事例の傾向は技人国の不許可事例を入管公表資料で解説した記事もあわせてご覧ください。
業務量は「時間割」ではなく「件数」で示す
追完資料では、申請人の1日のスケジュールを時間帯ごとに示し、「通訳・翻訳は例外的なものではなく、毎営業日、恒常的に発生している」と説明しました。 しかし、取引先との秘密保持契約などを理由に、1日の処理件数のうち通訳が必要になる件数や、現場の従事人数・拠点数は具体的な数字で示せませんでした。
入管が見ているのは、「その時間帯に何をしているか」だけでなく、その業務がどれだけの量あるのかです。時間割は業務の流れを示す資料にはなりますが、 それだけでは「その時間すべてを通訳・翻訳に使っているのか」が伝わりません。 当事務所が支援した通訳・翻訳に従事する社員の更新で在留期間5年が許可された事例では、担当する取引先の数、1日の注文件数、扱う品目数を数字で示しており、ここが大きな違いになったと考えられます。
- 1日・1か月あたりの通訳・翻訳の件数と、勤務時間に占めるおおよその割合
- 通訳・翻訳の対象となる業務の総量(処理件数・会議回数・文書の枚数など)と、そのうち申請人が担当する量
- 翻訳した文書、会議の議事録、業務日報など、業務の実績が分かる資料(機密部分は黒塗りで可)
- 数字を出せない事情がある場合は、取引先の了解を得たうえでの概数や、期間を区切った実績値
「機密なので数字は出せない」という説明だけでは、審査する側は業務量を確認できません。取引先との秘密保持の事情がある場合でも、概数や割合、黒塗りの実績資料など、出せる範囲で数字に置き換える工夫が必要です。
同じ国籍の社員が複数いるときは「役割分担」を説明する
本件では、申請人と同じ国籍の技人国の正社員が、申請人を含めて5名在籍していました。会社としては「同じ国の出身者が多い現場なので、母語で対応できる社員が必要」という説明でしたが、 入管からは、業務量が分からないなかで、なぜこの2名が通訳・翻訳として必要なのかが判断できないと指摘されました。
同じ言語を話せる社員が複数いる場合、審査する側は「通訳・翻訳の仕事は、その人数分あるのか」「ほかの社員と何が違うのか」を確認します。 次のような点を、組織図や担当表とあわせて示すことが考えられます。
役割分担として説明したい点
- 同じ国籍の各社員が、それぞれどの部署・どの業務を担当しているか
- 通訳・翻訳を担当するのは誰か、その人でなければならない理由(担当顧客・使用言語・資格など)
- 通訳・翻訳の総量を、担当者の人数で分けても十分な業務量があること
アルバイトへの指示を「伝えるだけ」では通訳・管理とみなされにくい
申請人は、日本人の現場リーダーからの依頼を受けて、同じ国出身のアルバイト従業員に母語で業務ルールや手順を伝えていました。 しかし入管からは、日本人リーダーの話を伝えるだけでは「管理している」とは認められないと説明を受けました。
出入国在留管理庁が公表している技人国の不許可事例でも、留学生アルバイトへの通訳やマニュアルの翻訳を業務とした申請について、 アルバイトは一定の日本語能力を持っているため通訳の必要性がない、マニュアルの翻訳は常に発生するものではない、として不許可になった例が紹介されています。 外国人アルバイトへの指示の伝達を職務の柱にする場合は、専門的な知識を使ってどのような判断・管理をしているのかまで説明できるかがポイントになります。
英語能力は「母国で英語で学んだ」だけでは足りない
申請人2名は、母国で幼いころから英語で授業を受けてきました。追完では、母国の学校の修了証や、専門学校での英語科目の成績(最上位評価)を提出しています。 それでも入管からは、英語が公用語ではない国の国籍であれば、母語はその国の言語なので、英語ができることの証明が必要との説明でした。 なお、申請人のうち1名については、母国で英語を使って授業をしていた経験があることの証明がなかったため、英語で授業をしていたことが記載された在職証明書があれば、一定程度の疎明(そめい:一応確からしいと示すこと)にはなるとの説明もありました。
追完の期限が短いときは、事情を記録して次の申請に活かす
本件では、申請から約4か月後の8月13日、お盆の時期の夕方に追加資料の提出を求められ、提出期限は6日後の8月19日、特例期間の期限は8月22日という状況でした。 英語の検定試験を受けて結果を出すことも、取引先と調整して業務量の数字を出すことも、この期間では困難でした。
当事務所からは、申請は言語能力の取扱いが公表される前に行っていたこと、カテゴリー2の企業であり、今後TOEICなどの受験を検討していたこと、 追完の期限が短く必要な資料を用意できなかったことを入管に伝え、もう少し時間的な猶予があるべきだったと主張しました。 説明を担当した審査官(実際に審査した担当者ではありません)からは、再申請の際にはその事情も理由書などに書いてほしいとの回答がありました。
追完の期限は延長をお願いできる場合もありますが、必ず認められるわけではありません。通訳・翻訳の業務で申請する場合は、業務量の数字と語学力の証明を最初の申請の段階でそろえておくことが、最も確実な対策です。
技人国の再申請——2つの方向性
再申請について入管に確認したところ、通訳・翻訳ではなく、専門学校で履修した科目と相当程度関連する業務で技人国を申請することも「一つの考え方として有り」との回答でした。 会社には、次の2つの方向性から検討してもらうようお伝えしています。
再申請の方向性
- A:通訳・翻訳のまま再申請する——1日・1か月の件数や割合、担当者ごとの役割分担、英語の客観的なスコアなどで、業務量と必要性をしっかり示す
- B:担当業務を見直して再申請する——専門学校の履修科目と成績証明書を確認し、学んだ内容と関連する業務(たとえば管理部門や営業・企画の業務など)に職務を組み直す
Bの場合は、職務内容が変わることになるため、実際の配置や業務分担も変える必要があります。書類のうえだけで業務を変えると、次の更新で同じ問題が起きかねません。 いずれの方向性でも、技人国の審査で見られる在留資格の「該当性・基準適合性・相当性」を一つずつ確認しながら組み立てることが大切です。
再申請で準備したい資料(チェックリスト)
通訳・翻訳の業務で再申請する場合のチェックリスト
- 通訳・翻訳の件数・割合が分かる業務実績表(1日・1か月単位)
- 翻訳文書・会議の議事録・業務日報など、業務の実例(機密部分は黒塗り)
- 組織図と担当表(同じ国籍の社員それぞれの担当業務が分かるもの)
- TOEICなど英語の客観的なスコア、英語で授業をしていたことが分かる在職証明書など
- 前回の申請で追完の期限内に資料を用意できなかった事情を記載した理由書
- (担当業務を見直す場合)専門学校の成績証明書・履修科目と、新しい職務との関連性の説明
時系列
よくある質問
まとめ——技人国(通訳・翻訳)の不許可から学ぶポイント
- 不許可の主な理由は、書面から1日の業務量が確認できなかったこと。時間割ではなく件数・割合で示す
- 同じ国籍の社員が複数いる場合は、役割分担とその人が必要な理由を説明する
- アルバイトへの指示を伝えるだけの業務は、通訳・管理とみなされにくい
- 英語が母語でない方の英語業務は、TOEICなどの客観的な証明を用意する
- 再申請は「通訳・翻訳で業務量を立証する」か「履修科目と関連する業務に見直す」かを検討する
技人国の不許可は、業務の実態そのものより「書面で伝わっていない」ことが原因になる場合も少なくありません。 具体的な手続きは個別事情によって異なるため、行政書士 加治屋事務所までご相談ください。
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