直近期末で債務超過でも「経営・管理」の更新が許可された事例|研究開発型の新興企業と2025年10月改正後の審査
在留資格「経営・管理」の更新では、会社の決算内容から事業の継続性が審査されます。 なかでも直近期末で債務超過になっている場合は、それだけで「事業の存続が危ぶまれる」と見られやすく、 説明を誤ると更新が認められないおそれがあります。 さらに2025年10月16日からは「経営・管理」の許可基準が大きく改正され、更新の場面でも新しい基準への適合状況が問われるようになりました。 本記事では、設立2期目で売上が限られ、直近期末で債務超過となっていた研究開発型の会社の代表者が、 依頼していた行政書士に在留期限の直前で辞任されるというアクシデントを乗り越え、 債務超過の原因と1年以内の解消計画を数字で示す理由書によって、在留期間の更新許可を受けた事例をご紹介します。
ケース概要
- 国籍・性別
- 中国・男性
- 在留資格
- 経営・管理(代表取締役)/今回が2回目の更新・許可された在留期間は1年
- 会社
- 設立2期目の研究開発型企業(事業者向けの省エネ関連設備の製品化・販売)
- 体制
- 資本金3,000万円、常勤役員1名・正社員5名(日本人の常勤職員を含む)、自宅とは別の倉庫付事務所
- 直近2期の決算
- 第1期:売上なし・当期純損失(期末は資産超過)/第2期:売上総利益あり・当期純損失で期末は債務超過
- 運転資金
- 代表者が実質的に支配する海外の資産管理会社からの長期借入
- その他の論点
- 海外グループ会社の整理のための長期出国(審査中に追完を求められた)
- 受任の経緯
- 前任の行政書士が在留期限の約10日前に辞任。在留期限の約1週間前に当事務所が受任
- 難易度
- 高(直近期末の債務超過、売上が限定的、2025年10月改正後の更新、長期出国、準備期間がほぼない)
- 担当
- 行政書士 加治屋事務所
事案の背景——設立2期目で売上が限られ、直近期末で債務超過に
申請人は、中国で長年会社を経営してきた経営者です。日本でもグループ会社の役員を務めた後、 グループで長年蓄積してきた技術を製品化・販売する中核会社として、2024年に日本で新会社を設立し、 代表取締役として在留資格「経営・管理」を取得しました。株式の8割超を保有する筆頭株主として、 受発注方針・価格決定・資金調達・人事などの経営判断を自ら行っています。
会社の主力製品は、事業者向けの省エネ関連設備です。 ただし、この製品は顧客に一定期間実機を試用してもらい、効果が確認できてから購入契約に至るというビジネスモデルで、 試用開始から代金を受け取るまでに半年程度かかります。そのため設立から日が浅い段階では売上が積み上がらず、 人件費や事務所の賃料などの固定費が先行しました。
その結果、第1期(設立初年度)は売上がなく当期純損失となったものの、期末の純資産はプラスを維持していました。 しかし第2期は、製品1台分の売上で売上総利益は確保できたものの、固定費を賄えずに当期純損失が膨らみ、 期末に数千万円規模の債務超過となりました。この状態で、2026年8月上旬の在留期限を迎えての更新申請を行うことになりました。
在留期限の約10日前、依頼していた行政書士が辞任
申請人は、今回の更新申請を大手の行政書士グループに依頼していました。 申請人が用意する資料は7月下旬の期限までに送付する約束で、申請人は期限当日にメール等で資料を送りました。 ところが、送った資料の一部が文字化けして開けない状態になっていたため、 週明けの月曜日、行政書士グループから「約束どおり資料が届かなかった」として、一方的に辞任を通知されました。
申請人は、一部のファイルが文字化けしていただけなので引き続き申請してほしいと依頼しましたが、受け入れられませんでした。 在留期限まで残り約10日。困った申請人が会社の顧問税理士に相談したところ、その税理士事務所に所属する中小企業診断士から、 その翌日に当事務所へご相談をいただきました。さらに翌日には申請人と面談・ヒアリングを行い、その場で受任しました。
2025年10月の基準改正と、更新申請への経過措置
「経営・管理」は2025年10月16日に上陸基準省令等が改正され、許可基準が大きく引き上げられました。主な改正点は次のとおりです。
2025年10月16日施行の主な改正内容
- 資本金の額・出資の総額などが3,000万円以上
- 常勤職員1名以上の雇用(日本人・特別永住者・「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」に限る)
- 申請者または常勤職員のいずれかがB2相当以上の日本語能力を有すること
- 経営管理等の分野の博士・修士・専門職学位、または事業の経営・管理について3年以上の職歴
- 在留資格決定時の事業計画書について、中小企業診断士・公認会計士・税理士による確認
本件は経過措置の期間中の更新でしたが、会社はもともと資本金3,000万円・日本人の常勤職員あり・代表者の経営歴10年以上という体制で、 改正後の各基準をいずれも満たしていました。理由書では経過措置に頼るのではなく、 資本金(履歴事項全部証明書)、常勤職員(労働条件通知書・住民票・源泉徴収票)、日本語能力(日本人の常勤職員の在籍)、 経歴(代表者の職務経歴)を項目ごとに資料と対応させて、新基準への適合を正面から示しました。
債務超過の会社は「事業の継続性」がどう判断されるか
出入国在留管理庁のガイドライン「『経営・管理』の在留資格の明確化等について」では、事業の継続性を単年度の決算ではなく 直近二期の決算状況で判断するとしています。債務超過については、次のように整理されています。
債務超過の場合の取扱い(直近期または直近期前期に売上総利益がある場合)
- 直近期末で債務超過・直近期前期末は債務超過でない:債務超過が1年以上継続していない場合に限り、1年以内に債務超過でなくなる具体的な見通しがあることを前提に継続性を認める。中小企業診断士や公認会計士等の公的資格を持つ第三者が改善の見通しを評価した書面(根拠となる理由の記載があるもの)の提出が求められる
- 直近期末・直近期前期末ともに債務超過:原則として継続性は認められない。ただし設立5年以内の国内非上場企業(新興企業)が独自の技術等で事業を成長させようとしている場合は、評価書面・資金調達の取組み・製品開発や顧客基盤拡大の取組みを示す書類を踏まえて柔軟に判断される
直近期末だけの債務超過であれば、1年以内の解消見通しを示すことで継続性が認められる余地があります。 一方、2期続けて債務超過になると原則として継続性が否定されます。決算書の数字をそのまま提出するだけでなく、 どの類型に当たるのかを理由書で明示し、それに見合った資料をそろえることが重要です。
本件は、第1期末は資産超過、第2期末で初めて債務超過となったケースで、上の1つ目の類型に当たります。 そこで理由書では、「債務超過は1年以上継続していない」ことを第1期の決算書で示したうえで、 1年以内に債務超過を解消する見通しを具体的に説明することに力点を置きました。
理由書で示した5つのポイント
① 本業で粗利益を生む構造があること——売上が少ない理由はビジネスモデル
第2期の売上は製品1台分にとどまりましたが、売上総利益(粗利益)は確保していました。 そのうえで、顧客向けの案内資料「購入までの流れ」(試用開始→効果測定→契約→代金支払い)を添付し、 試用開始から売上計上まで半年程度かかることを示しました。売上が限られているのは事業不振ではなく、 ビジネスモデルに内在する時間差によるものだと説明しています。
② 債務超過は1期のみで、事業立上げ期の先行投資によるものであること
第1期は設立初年度(実質約11か月)で、期中に事務所の賃借や人員の採用を行ったため、売上に先行して固定費を投下しました。 それでも期末の純資産はプラスでした。第2期の債務超過も同じく研究開発型の新興企業の立上げ期に特有の先行投資によるもので、 恒常的な赤字体質ではないことを決算書の推移で説明しました。
③ 資金基盤と代表者の資力——借入先は代表者の資産管理会社
運転資金は、代表者が実質的に支配する海外の資産管理会社からの長期・低利の借入で賄っており、 金融機関からの借入と異なり短期の返済圧力はほとんどありません。また、代表者自身が日本に持家を所有し、 第1期には自ら会社に資金を投じてきた実績(決算書の勘定科目内訳明細書に計上)もあることを示し、 必要に応じて増資や貸付けで会社を支える蓋然性が高いことを説明しました。
④ 顧客基盤と技術の独自性——試用中の案件と国際特許出願
すでに販売実績があるほか、複数の事業者で製品を試用中で、うち1件は試用を終えて導入判断を待つ段階にあることを、 試用先の一覧で示しました。あわせて、中核技術についてグループ会社名義で特許出願がされていること、 製品カタログに記載された導入先での費用対効果の実績を示し、事業が独自の技術に基づくものであることを裏付けました。
⑤ 1年以内に債務超過を解消する具体策——DES(デット・エクイティ・スワップ)
ここが本件の最も重要なポイントです。試用案件の契約転換で売上は伸びる見込みですが、 営業利益だけで1年以内に債務超過を解消するのは難しいことも理由書で率直に認めました。 そのうえで、資産管理会社からの長期借入金を資本に振り替えるデット・エクイティ・スワップ(DES)を実施し、 必要に応じて増資も併せて行うことで、1年以内に債務超過を解消する計画を示しました。 貸し手が代表者の支配する会社であるため、代表者の意思で実行できることも明記しています。
- ガイドラインでは、直近期末のみ債務超過の場合、中小企業診断士等による改善見通しの評価書面の提出を入管が申請者に求めるとされている
- 本件では、入管から追完の求めがあった場合にすぐ出せるよう、中小企業診断士による「経営改善の見通しに関する評価書」を準備した
- 申請時には評価書そのものは提出せず、評価書と同じ分析(直近2期の財務状況、債務超過の原因、借入金の性質、売上増加(営業面)と資本増強策(財務面)の実行確度)を理由書に盛り込んだ
- 理由書には、評価書面について「追加でご指示をいただき次第、速やかに提出する」と明記した
- 結果として、審査中に評価書の提出を求められることはなかった
なお、繰越欠損金があるため、今後利益が出る局面でも当面は法人税等の負担が軽減され、資金繰りの面でも改善に資することも補足しました。 また、租税(源泉所得税・法人住民税・事業税・消費税等)や社会保険・労働保険の適正な納付を納税証明書・納入証明書で示し、 事業者としての義務を履行していることも併せて説明しています。
審査中に求められた追完——「長期出国」の説明
申請から約2週間後、申請が返却され、入管から長期出国に関する追完を求められました。 申請人は中国・香港にもグループ会社を持っており、2025年から2026年にかけて、その経営統合・整理のために日本を長く離れていたためです。
出入国在留管理庁は、2025年10月の改正に伴う留意点として、在留期間中に正当な理由なく長期間の出国を行っていた場合は、 本邦における活動実態がないものとして在留期間更新許可は認められないとしています。 経営者は海外との行き来が多くなりがちですが、出国期間が長い場合は理由と日本での経営実態を説明できるようにしておく必要があります。
追完では「長期出国の理由及び今後の在留予定に関する説明書」を作成し、次の点を整理しました。
- 出国の理由は、海外グループ会社の経営統合・整理という一時的・非経常的な事由であり、統合はすでに完了していること
- 出国中も、オンライン会議等で経営上の重要事項を自ら決定し続けていたこと。日常業務は日本に常勤する役員と正社員5名が代表者の決定に基づいて遂行する体制があったこと
- 住所を日本に移して登記も済ませており、日本に持家があるなど、生活の本拠が日本にあること
- 海外の出入境記録(現地当局の照会結果)を添付し、出入国の状況を客観資料と整合させたこと
- 統合完了により長期出国の必要はなくなり、今後は日本での滞在日数を大幅に増やして事業に専念する予定であること
返却から9日後に追完資料を提出して同日に審査が再開し、その約3週間後、在留期間の更新が許可されました。
主に準備・提出した資料
経営・管理の更新申請で提出した主な資料
- 在留期間更新許可申請書・写真・パスポート・在留カード
- 申請理由書・申請に当たっての説明書・活動内容説明書(当事務所作成)
- 会社案内・製品カタログ・顧客向け案内資料「購入までの流れ」(事業内容・ビジネスモデル)
- 建物賃貸借契約書(事業所)
- 常勤職員の労働条件通知書・住民票・給与所得の源泉徴収票(常勤職員・日本語能力)
- 履歴事項全部証明書(資本金)
- 第1期・第2期の決算報告書(事業の継続性・債務超過が1期のみであること)
- 特許出願関係書類(技術の独自性)
- 法人の納税証明書・法定調書合計表、代表者個人の納税証明書・所得課税証明書・年金記録(公租公課)
- 社会保険料・労働保険料の納入証明書(労働・社会保険)
- 【追完】長期出国の理由及び今後の在留予定に関する説明書、海外グループ会社の紹介資料、海外の出入境記録
時系列
よくある質問
まとめ——債務超過の会社が「経営・管理」の更新許可を得るためのポイント
- 事業の継続性は直近二期の決算状況で判断される。まず自社がガイドライン上どの類型に当たるかを確認する
- 直近期末のみの債務超過なら、1年以内に債務超過でなくなる具体的な見通しを示すことが前提。中小企業診断士・公認会計士等の評価書をいつでも出せるよう用意し、その分析を理由書にも反映する
- 売上が少ない理由は、商流やビジネスモデルなど客観的な資料で説明する
- 営業利益だけで解消が難しければ、それを認めたうえでDESや増資など実行可能な資本増強策を示す
- 2025年10月改正後の更新では、新基準への適合状況も項目ごとに資料と対応させて示す(2028年10月16日までは経過措置あり)
- 正当な理由のない長期出国は更新不許可の原因になる。出国が長い場合は理由と日本での経営実態を説明できるようにしておく
「経営・管理」の更新は、決算の内容、事業の進捗、資金調達の状況、出入国の状況などによって準備すべき資料や説明の組み立てが大きく異なります。 具体的な手続きについては、行政書士 加治屋事務所までご相談ください。
行政書士 加治屋事務所|東京都中央区日本橋エリア
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