特例期間中の取り下げは危険|技人国の内定取消と出国準備への変更

トラブル

「内定を出した外国人材の就労ビザ(在留資格)の審査が間に合わず、やむを得ず内定を取り消すことになった」—外国人の新卒採用に取り組む企業では、決して珍しくない事態です。

とくに、卒業後に技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)への在留資格変更を申請したものの結果が出ず、すでに留学の在留期限が過ぎて「特例期間」に入っている場合、対応を誤ると本人がその日から不法残留(オーバーステイ)になってしまう危険があります。

本記事では、特例期間中に内定取消となったケースを題材に、「なぜ取り下げてはいけないのか」正しくはどう動くのか」を、人事担当者がそのまま社内共有できる平易さで整理します。読み終えるころには、本人と企業がとるべき次の一手が明確になります。

【筆者プロフィール】

行政書士・第一種衛生管理者・EAPコンサルティング・ファイナンシャルプランニング技能検定3級 長年の総合人材サービス会社にて労働法令・労働市場・雇用関係に精通しており、行政書士としては申請取次士として、数多くの在留資格の申請に携わる。また、企業・団体などの外国人雇用に関する相談実績も多数。

技人国の内定取消はなぜ起きる?停止条件付き内定と審査の遅れ

外国人留学生を新卒採用する場合、企業は内定を出したうえで、本人が留学から技人国(技術・人文知識・国際業務)へ在留資格を変更できることを前提に入社を見込みます。

ところが、在留資格変更許可申請(以下、変更申請)の審査には一定の期間がかかり、補正(追加資料の提出)が重なると、想定より結果が遅れることがあります。

そこで実務上は、内定通知書に「◯月末までに在留資格の許可が得られない場合は内定を取り消す」といった停止条件(一定の条件が満たされて初めて効力が生じる、または失われる条件)を付すケースがあります。許可が間に合わなければ、この条件によって内定そのものが消滅します。

問題は、この時点で本人の在留がどうなっているかです。卒業後も変更申請の審査が続き、もとの留学の在留期限を過ぎている場合、本人は「特例期間」という仕組みによって在留しています。内定取消によって申請の土台(雇用先)が失われると、その申請をどう処理するかが、本人の在留の適法・違法を分ける重大な分岐点になります。

技人国ビザの要件をくわしく見る
技術・人文知識・国際業務の在留資格完全ガイド

「特例期間」とは|在留期限が切れても在留できる仕組み(入管法第20条第6項)

特例期間とは、在留期限までに変更申請(または在留期間更新許可申請)を行った人について、その申請に対する処分(許可・不許可)が在留期限までにされないとき、処分がされる時、またはもとの在留期限から2か月を経過する日のいずれか早い時まで、引き続き従前の在留資格で在留できるという制度です。根拠は出入国管理及び難民認定法第20条第6項(更新については第21条第4項で準用)にあります。

ここで決定的に重要なのは、特例期間が成り立つ前提が「その申請に対する処分がされないとき」、すなわち審査中の申請が存在していることだという点です。

つまり、留学の在留期限がすでに過ぎている人にとって、いま適法に在留できている根拠は、留学の在留資格そのものではなく、「技人国の申請が審査中であること」だけなのです。

なお、卒業・退学した元留学生は、特例期間中であっても資格外活動(アルバイト)はできません。留学の活動目的がすでに終わっているためで、ここも誤解の多いところです。

出入国管理及び難民認定法

第二十条6 第二項の規定による申請があつた場合(三十日以下の在留期間を決定されている者から申請があつた場合を除く。)において、その申請の時に当該外国人が有する在留資格に伴う在留期間の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは、当該外国人は、その在留期間の満了後も、当該処分がされる時又は従前の在留期間の満了の日から二月を経過する日が終了する時のいずれか早い時までの間は、引き続き当該在留資格をもつて本邦に在留することができる。

特例期間について知りたい方はこちら
技術・人文知識・国際業務ビザの更新完全ガイド

出入国在留管理庁「特例期間とは?」はこちら

特例期間中に「取り下げ」をすると、その日から不法残留になる理由

ここからが本記事の核心です。内定が取り消され、技人国として許可される見込みがなくなったとき、「ならば申請を取り下げよう」と考えがちです。

しかし、もとの留学の在留期限がすでに過ぎて特例期間に入っている段階での取り下げは、極めて危険です。

理由はシンプルです。特例期間は「審査中の申請」を前提に成り立っています。申請を取り下げると、その審査中の申請が消滅します。すると特例期間を支える土台がなくなり、本来の在留資格である留学はすでに期限切れですから、取り下げたその時点から不法残留(オーバーステイ)状態になってしまうのです。

不法残留は、出入国管理及び難民認定法第70条により3年以下の懲役もしくは禁錮もしくは300万円以下の罰金(またはこれらの併科)の対象とされ、退去強制手続や将来の再入国にも重大な影響を及ぼします。良かれと思って行った「取り下げ」が、本人を一気に違反状態へ追い込みかねません。

なお、留学の在留期限がまだ残っている段階での取り下げであれば、その残存期間までは留学の在留資格で適法に在留できます。「取り下げが危険」かどうかは、もとの在留期限がすでに過ぎているか(特例期間中か)で大きく変わる、という点を必ず区別してください。

出国準備の特定活動は「取り下げ」では付かない|不許可・申請内容変更との関係

「不許可になっても出国準備の特定活動がもらえると聞いた。取り下げでも同じでは?」という質問をよく受けますが、これも誤解です。

出国準備のための特定活動(在留期間30日または31日)は、変更申請や更新申請が不許可となった場合に、直ちに退去強制とするのは酷であるとの配慮から、申請内容変更申出書の提出を通じて「特定活動」への在留資格変更を認める、という救済的な運用です。

つまり、「不許可処分」というトリガーがあって初めて案内されるものです。

これに対して、本人が自分から行う「取り下げ」には、不許可処分が存在しません。したがって、取り下げに伴って出国準備の特定活動が自動的に付与されることはありません。

結果として、特例期間中の取り下げは「緩衝期間のないまま、即時に不法残留」という最悪の結果を招きます。

適法な出国準備の時間を確保したいのであれば、取り下げるのではなく、審査中の申請をそのまま生かして出国準備へつなげる必要があります。それが次に述べる「申請内容変更」です。

正しい対応|取り下げず「出国準備」へ申請内容変更する手順(持参物・手数料)

特例期間中に技人国の許可見込みがなくなった場合の正攻法は、取り下げず、審査中の技人国申請を「出国準備のための特定活動」へ申請内容変更することです。

申請内容変更申出書(入管法施行規則に基づく書面)を用いて申請の内容を切り替えることで、審査中の申請が途切れず、特例期間を維持したまま適法に出国準備の在留資格へ移行できます。

実務上の手続きは、管轄の出入国在留管理局の案内に従うことが大前提ですが、一般的には次の流れとなります。

【手続きの流れ(一般例)】

  1. 取り下げではなく、出国準備への申請内容変更を行う方針を管轄局に相談・確認する
  2. 申請人本人が出入国在留管理局へ出頭する
  3. 申請内容変更申出書に署名し、出国準備のための特定活動への在留資格変更を申請する
  4. 許可後、出国準備期間(30日または31日)が指定される

【本人が持参するもの(一般例)】

持参物補足
パスポート指定書が貼付される場合があります
在留カード窓口で確認・返納を求められることがあります
手数料 6,000円在留資格変更許可申請の窓口手数料(2025年4月改定後)。収入印紙で納付する運用が一般的です

手数料は、許可される際に6,000円を収入印紙で納付する取り扱いが一般的です。申請人本人が出頭して署名する手続きであるため、企業側だけで完結できない点にも注意が必要です。

パスポートに貼付される指定書
在留資格もパスポートへ貼付される

企業の人事担当者が押さえておきたい実務ポイント

内定取消は本人にとって重い出来事であり、企業としても在留状況のフォローを誤らないことが大切です。一般論として、次の点を押さえておくと安全です。

  • 30日と31日で意味が違う:出国準備の特定活動が31日であれば、その期間内に新たな在留資格変更申請を行えば特例期間が適用され、結果が出るまで(または2か月)在留を継続できる余地があります。一方、30日は特例期間の対象外で、速やかな出国が前提となります。
  • 出国準備中は就労・資格外活動ができない:出国準備の特定活動の間は働けません。誤って就労させると不法就労となり、企業側にも罰則のリスクが及びます。
  • 新規申請には特例期間が付かない:いったん取り下げてから別の在留資格を新規申請しても、その申請はもとの在留期限を過ぎてからの申請となり、特例期間の対象外です。審査中はオーバーステイになり得ます。だからこそ「取り下げない」ことが重要になります。
  • 方針を先に固める:このまま帰国するのか、出国準備期間中に別企業での技人国などの再申請を目指すのかで動きが変わります。再申請を視野に入れるなら、付与日数の確認と書類準備を並行して進めます。
  • 早期に専門家・管轄局へ相談:在留期限・特例期間の満了日は刻一刻と迫ります。判断を後回しにせず、管轄の出入国在留管理局や申請取次行政書士へ早めに相談することが、本人にとっても企業にとっても最善です。

よくある質問(FAQ)

Q
特例期間中に在留資格変更申請を取り下げると、すぐ不法滞在になりますか?
A

もとの在留資格の在留期限がすでに過ぎている場合は、取り下げによって特例期間の根拠となる審査中の申請が消滅するため、取り下げた時点から不法残留になると解されます。在留期限がまだ残っている段階での取り下げとは扱いが異なります。

Q
取り下げても出国準備のための特定活動はもらえますか?
A

出国準備の特定活動は、原則として申請が不許可となった場合の救済運用として案内されるものです。自主的な取り下げには不許可処分が存在しないため、自動的には付与されないと解されます。出国準備につなげたい場合は、取り下げず申請内容変更で対応するのが安全です。

Q
出国準備のための特定活動の期間中にアルバイトはできますか?
A

できません。出国準備の特定活動は出国の準備を目的とするもので、就労や資格外活動は認められていません。誤って就労させた場合、本人だけでなく雇用した企業側も不法就労助長のリスクを負います。

Q
出国準備期間中に別の会社で就労ビザを取り直すことは可能ですか?
A

付与された期間が31日であれば、その期間内に新たな在留資格変更申請を行うことで特例期間が適用され、審査結果まで在留を継続できる余地があります。30日の場合は特例期間の対象外で、いったん出国し在留資格認定証明書交付申請からやり直す流れが基本となります。いずれも個別の審査によります。

Q
これらの手続きは企業側だけで進められますか?
A

出国準備への申請内容変更は、申請人本人が出入国在留管理局へ出頭し、申請内容変更申出書に署名する運用が一般的です。企業側のみで完結できないため、本人の出頭日程やパスポート・在留カード・手数料の準備を早めに整える必要があります。

まとめ

留学から技人国への変更申請中に内定が取り消され、すでに留学の在留期限が過ぎて特例期間に入っている場合、「取り下げ」は本人をその日から不法残留に追い込む危険な選択です。

特例期間は審査中の申請を前提に成り立っており、取り下げるとその根拠が失われるためです。出国準備のための特定活動も、不許可処分を前提とする救済であり、取り下げには付きません。

正しくは、取り下げず審査中の申請を出国準備へ申請内容変更し、適法に在留を維持したまま出国準備や再申請につなげることです。

具体的な手続きは個別事情によって異なるため、行政書士 加治屋事務所までご相談ください。

📋 外国人雇用の手続き・ビザ申請でお困りですか?

まずは無料でご相談ください

在留資格の判断・申請手続きから採用後のフォローまで、
申請取次行政書士が一括してサポートします。

サービス詳細・無料相談はこちら →

📨 週刊ニュース購読登録(無料)

外国人雇用の最新情報を毎週月曜にお届け

企業の人事・労務担当者向けに、外国人雇用・在留資格関連ニュースを毎週月曜朝にお届けします。

  • ✅ 毎週月曜朝に最新ニュースをまとめてお届け
  • ✅ 申請取次行政書士が現場目線で厳選
  • ✅ 無料・いつでも解除可能

    ※メールアドレスは購読配信以外の目的では使用しません。

    トラブル
    シェアする